Tibet Sato Edited 1

七夜連続上映2017 〈チベット仏教の贈与儀礼と芸能〉レポート

2017 年12 月8 日、ポレポレ東中野にて「エンサイクロペディア・シネマトグフィカ」の七夜連続上映の最終日が終えました。
最後のテーマはチベット!チベットといっても、「チベット仏教の贈与儀礼と芸能」がテーマです。皆さんはチベットという国をどのくらいしっていますか?
私はチベットについての知識はとても自身がないです。ですが、踊りは観るのもするのも大好きです。今回はその中でもダンスという運命的な巡り合わせで参加できてとても幸運でした。
踊りは不思議なことにどこの場所に行っても存在する行為。日本では舞、能、盆踊り等々あります。同じアジア圏でもあるチベットの踊りをみて、きっとどこかに共通点はあるのでは、という気持ちを胸に、上映会へいざ参戦。
今回のゲストはチベット研究をしている佐藤剛裕さんにお越し頂き、解説を交えてのスタート。
なんと、今回上映されたEC フィルムには佐藤さんが実際にフィールドに行った際のかつての仲間が映っていた!というとんでもキセキが。
実際に上映会へ観に行った感想を交えて行きたいと思います。

 

1・チャム・踊り
最初に流れた映像はチャム・踊り!仮面をかぶった人々のおどりから始まりました。無音映像なので、佐藤さんが直々にBGM をつけてくれてました。
「ドーン、ドーン、ドーン」「じゃん、じゃん、じゃん」と、実際に収録されていないからこそ包まれる独特な空気感に、より一層魅入られていきます。

中でも「仮面」が非常に印象的でした。デザイン性が日本ではまったくみない装飾で、見ててとっても面白い!戦士の踊りでは韓国の両班がかぶるのようなものだったり、骸骨の仮面をしていたり、動物の顔、スパルタみたいなトサカの帽子をかぶっていたり…バリエーションが非常に豊か!
踊りの意味の話では、「お酒」にまつわった話がとても日本との接点を感じさせ興味深かったです。それは、仏教を守る約束をした神々にお酒を振りまく。というもの、地鎮祭という例が出されてなるほど!と思いました。神々を鎮め、許しを願うという一連の行為は、謙虚で非常にアジア的なのではと感じさせられました。
踊り方はとってもユーモラス。ゆっくりと、しかし中心軸はブレずにぐるりと回る動作は、容易そうに見えてとても繊細な動き。ゆったりしているがどっしり、しかしゆらゆらと動くムーブメントは日本の能と似ているな、と少し感じました。ここでも佐藤さんの「ドーン、ドーン、」「カラン、カラン、カラン」というBGM が流れます。

イラスト

2・仏教徒巡礼の踊り
お次は仏教徒巡礼の踊り、仏教巡礼と聞けば五体投地かと思いますが踊りもあるそうです。楽器を吹く人、踊る人、歌う人、とまるで劇団のような団体たちが踊っている映像でした。実際にはチベットの職能集団の芸人さんたちの末裔だそうです。
魚のヒレのような装飾、独特な仮面模様とビジュアル的面白さがたくさんあります。
踊り方はチャム・踊りとは違い、くるくる、ひらひらと軽快に
踊っていました。
ひらひらと舞う様を見て仏教徒としての硬い信念、信仰心の
強さ、そして何よりも存在感を感じました。私たちならお経を
詠むが、彼らは身体一つで神との繋がりを測るのです。

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3・インド・ダルムマサラでの絵描き“ラフ・マニ”
ダルムマサラで新年に集った人のために阿弥陀浄土、曼荼羅の絵を見せながら教えを説く映像でした。この映像には音声が入っており、バックに「あー、あー」とミサのような讃美歌が流れていました。
先生が歌いながら教えてくれており、難しいお勉強も歌いながらだったら楽しく勉強できるのにな…と少し考えてしまいました。
教えを受けている信者の方々の腕には数珠があり、くるくると回るでんでん太鼓のようなものを回していました。

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4・1972 年の回暦の儀式と祭り1 インド・デーラズンでの祭りの準備と
黒帽子の踊り” ズヴァ・ナグ・ギチャム”
映像は1972年と新しいので、音、カラー映像で観る事ができました。
これはたくさんの神々にささげる歌を楽器を使い音楽を奏でていました。
それぞれのお祭りの服装が神をかたどった形であったりと信仰心が強く伺えました。ここで興味深かった話は、麦焦がしを部屋の上にお供え、それを鳥が食べる、鳥にお返しをするという独自発展の話です。
チベットは鳥が穀物を運んでくるという考えはチベットならではなのではと深く感じました。

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5・1972 年の回暦の儀式と祭り2 インド・デーラズンでの大晦日の感謝の供物: 守護神への捧げ物
続いて今度は同じくインド・デーラズンでの供物、守護神への捧げ物編です。
映像は1972年と新しいので、音、カラー映像で観る事ができました。
佐藤さんは贈与の儀礼というのは体で表現する動的表現と仰っていました。
日本の場合は贈与というと何か物をお供えする、というイメージが大きいので贈与=動的表現は中々思い浮かべづらいかもしれません。
最初に出てきたのは火縄銃の音!「ぱぱん!ぱぱん!」と爆竹のような音があたりを包みます。矢で射ったり、している動作が多くこれはランダルマを矢で射って殺した伝説。大晦日の王殺しの神話に基づいているそうです。
ゆったりしているが、決っしてブレることのない軸足。「どーん、どーん」といった音と共に舞う人々。
このインド・デーラズンの場所は、ジャングルみたいなところで、猿がいっぱいいるとのこと・・・

6・特別上映 密教舞踊祭マニ・リンドゥ
こちらもカラー映像。カラーで見れるからこそのお祭りの衣装。カラフルで彩度の高い色がとても目に入りました。
他にも「劇」のようなシーンもたくさんあり、コミカルで非常に面白いです。雰囲気はおどろおどろしいものが多く、小さい子供が見たら泣いてしまいそうなものも・・・!
仮面も心なしか今まで見たものよりすごい形相の物が多かったです。
音声も入っていたので、「はった。はった。はった。」「ハゥー!ハゥー!ぺっ!」「ジャン、ジャン、ジャン」などユニークな掛け声も多々ありました。
曼荼羅の絵を砂で描き消す映像も入っていました。
これは個人的に非常に印象的な映像で、砂絵で描いた曼荼羅を消した後、水源地へ行き曼荼羅の砂をまいて終わりでした。
描いたものを消し、跡を残さないという点が、より人々の願いを反映してくれそうな、そんな気がしました。一瞬の価値、それは「踊り」も同じことだと強く感じ、チベットの方々の「一瞬」の価値、そこにかける願いがダイレクトに伝わる映像でもありました。

6・特別上映 鳥葬儀礼チュウの舞踊
最後の映像は色んな葬儀の儀礼の中でも鳥葬をする映像を観ることができました。日本は火葬が主ですね。
鳥葬、というのは死んだ人の体を切り刻んで鳥に食べさせる行為です。
「チュウ」というのはチベット仏教で行う観想法で、 自分自身の肉体を切り刻んで仏神や魔物に捧げる観想行です。 これはシャーマニズムのイニシエーションに起源を持つ行です。鳥葬とチュウとの関連性はすごく根強そうです。
実際に人々が輪になり踊り始めると・・・空から鳥がやってくるのです!すごく不思議な映像でした。チュウの舞踊も、段々と踊りが鳥のような動きになって行くのが非常に面白かったです。ちなみに鳥のような動きになって行くのは、餌の奪い合いの動作だというとのこと。

7・特別披露・人骨の笛?!
上映会の後、佐藤さんが特別に見してくれた笛がありました。
なんとそれは人骨で作られた笛。さらにただ人骨というだけでなく、未練タラタラで亡くなった人の骨で作られるというもの。
これは非常に興味深い代物でした!
実際に笛を吹いてくれましたが、その音のおどろおどろしさ、会場の一瞬凍りついた様子は今でも忘れられません。

・上映会を終えて
私自身はカメラも担当しており、会場のお客様の様子。佐藤剛裕さん、下中菜穂さんの写真をとりながら体験させてもらいました。
その中でも一番印象的だったのは「一瞬の表現」です。
曼荼羅の砂絵も、鳥葬への舞も一瞬で表現し、儀礼葬礼祭典も一瞬の踊りで表現します。記録とは違い、一瞬はその時間が非常に大切であり、普段記録したものを見ることが多い現代の私たちにはあまり多く無い経験かも知れない。
佐藤さんが仰った贈与の儀礼は動的表現というのは、カメラよりも強い一瞬を残すのだと、私は強く思った。