Sudan

七夜連続上映2017 〈スーダン ヌバ 変わる生活 変わらない魂〉レポート

2017年12月4日に行われた「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」7夜連続上映の第3夜。今夜のテーマは「スーダン ヌバ 変わる生活 変わる生活変わらない魂――映像の里帰り。スーダンへ」です。長期の内戦により、かつてのヌバの生活を記録した映像があまりないと言われている中で、彼らの生活文化を垣間見られるチャンスが巡ってきました。文化人類学者の村橋勲さんと日本在住のヌバ人エルヌール・クワ・マッキさんという二人のゲストに導かれながら、映像の世界を堪能していきます。

今回はヌバの生活文化に関するECフィルム4本と村橋さんの映像3本が上映されました。後者の3本のうち2本は、この夏村橋さんがフィールドワークをした際、ECフィルムに残る昔のヌバの生活の記録を、内戦によって近隣諸国で難民となった今日のヌバの方々に見て頂いたインタビュー映像です。この点が「映像の里帰り。スーダンへ」、今夜のサブタイトルの所以となっています。上映中の解説に加えて、合間合間にゲスト2人のトークや会場との質疑応答を挟む形で会は進んでいきました。

機能的な生活の細部を覗く
ECフィルムの魅力の一つは、それを見た人が再現できるような形で撮影されていることでしょう。観客は映像内で行われている料理や食事、あるいは収穫といったヌバの生活の営みに対してじっと目を凝らすことができるのです。
モロコシの練り粥であるウガリ(主食)と、タマリンドを煮て乾燥オクラを加えたスープ(おかず)を料理し食べる行程、また、そのモロコシを男女が役割分担しながら収穫していく風景が映し出されました。
調理のシーンで背後に映った家の作りや、収穫したモロコシをバスケットに詰めていくやり方などには、日々の繰り返しの中で洗練されていった生活実践が垣間見られ、その機能的な美しさは目を見張るものがありました。

若者にとっての・ヌバにとってのレスリング
ヌバの文化において、レスリングは重要なものであるとされています。若い男性が行う単なる一つのスポーツ、あるいは遊び以上に、ヌバの独自性に深く関わっていると言えるでしょう。
ECフィルムには、レスリングの練習開始を告げるための角笛吹き、またそれに呼応する声掛けを行う少年たち、そして、レスリングの練習風景が映っています。10歳から12歳ほどの少年たちが、一人前のレスラーを夢見て練習に励み、20歳前後のベテランが若手に稽古をつけている様子が描かれています。
こういったシーンは、現在故郷を離れて難民キャンプ、あるいは別の都市で生活するヌバの人々にも心象風景となって残っているかもしれません。

「変わる生活 変わらない魂」
村橋さんのヌバの方々に対するインタビュー映像で語られるのは、戦争によって起こった自分たちの生活の変容についてです。難民キャンプにいるヌバにとっては、伝統的な生活を実践する機会がなく、ウガンダの首都カンパラにいるヌバにとっては、文化が混ざり合い、機械化も進んだ今日、あえて伝統的な生活を送るということはないそうです。しかし、彼らは同時に以前の伝統的な生活に対して懐古の念を語るのです。
ヌバの過去の映像と現在の映像を通して見ることで、より強く浮き上がってくるメッセージもあるでしょう。当事者にとってのみならず、観客として本日訪れた外部の人間にとっても、「難民となって故郷を追われた人々がその生活をいかに維持していくのか」という課題を考えるいい機会になったのではないでしょうか。

ややもすればECフィルムは、その映像の珍しさゆえに却って、観客が映像から読み取るという意識的な作業を妨げることになるかもしれません。しかし、どのフィルムとどのフィルムを並べるか、またゲストスピーカーがいかなる補助線を引くか、あるいはどこまで映像の文脈を提示できるかによっては、ふつうに映像を見るよりも得るものがあるはずです。今夜の上映会はその点において伝わるものがあったと私は思います。

村主 直人