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七夜連続上映2017 〈サルをみる、ヒトをみる〉レポート

2017年12月3日に「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」の7夜連続上映の第二夜が開催されました。今日のテーマは「ヒトとサル、親と子、そしてベッド」です。映像体験のみならずささやかな体験も楽しめる上映会をレポートしていきます!

今夜のゲストは、今回の7夜連続上映を企画協力した、フィールドワーカーのネットワークNPO「FENICSの代表理事でもある社会人類学者の椎野若菜さんと、霊長類学者の座馬耕一郎さんのお二人です。簡単にご紹介すると椎野さんはヒトを、座馬さんはサル(その中でもとくにチンパンジー)を対象にしておられます。専門分野も研究対象も異なるお二人ですが、フィールドワーカーとしての共通点も多いそうです。お二人の解説を交えながらの映像鑑賞とトークを交互に組み合わせる形の上映会となりました。

①子育てについて、ヒトとサル
今日の上映会は大きく分けて「子育てと「ベッド」でした。前半のエンサイクロペディアの映像は80年代のものです。

チンパンジーのシロアリ釣り(EC)
上映開始の合図となった映像はチンパンジーのシロアリ釣りから。こちらの映像はモノクロ映像が多いエンサイクロペディア・フィルムの中でも珍しいカラーです。座馬さんのご説明で印象に残ったのが、世界中すべてのチンパンジーが同じ行動をするわけではなく、地域によってやることとやらないことがあり、チンパンジーは本能で生きているわけではない。チンパンジーにも文化がある、というお話でした。サルやヒト以外の動物は本能の赴くまま生きていると思っていたので、驚きでした。ちなみにチンパンジーとヒトは遠い昔、祖先が一緒であり、ヒトの祖先ではないそうです。

チンパンジーの『子育て』前半(近年の調査映像)
続けてみた映像(こちらは座馬さんの調査映像です)もチンパンジーの子育てでした。色々な方法で子供を運ぶ様子や、遊んでいるところ、まったりした昼寝映像を見ました。この映像で、初めてチンパンジーの笑い声を聞きました!ご存知ない方は、ぜひ見ていただきたい必見の映像です!館内も驚きの声があちらこちらで聞こえました。一連の映像で座馬さんが繰り返しチチでもハハでもない(同じコミュニティ内の)他人が、子供のチンパンジーをおぶってあげたり、遊んであげたり、面倒を見るとおっしゃっていました。他人のおじさんが子供と遊んであげる—このような光景は現在の日本では珍しいでしょう。互いに助け合い、コミュケーションを取りながら子育てを含めた生活を行っていく、それがチンパンジーの子育てでした。

「父親と叔父の乳児の世話」と「伯母は(甥姪の)世話をしない」(両方ともEC)
トークを交えた後はヒトの映像でした。エンサイクロペディアのフィルムで、80年代のトロブリアントの映像です。「父親と叔父の乳児の世話」と「伯母は(甥姪の)世話をしない」を続けて見ましたが、タイトル通り男性である父親や叔父が赤ん坊をあやす映像が多いように感じました。しかし女性(母親や伯母)が全く世話をしない、というような無関心や冷たいようには見えませんでした。男性がずっと抱っこしていたのに対し、女性は時々応じて抱っこしてあげる、というように男性に比べると、女性が素っ気なく感じました。

チンパンジーの『子育て』後半(近年の調査映像)
ヒトの子育ての次は再びチンパンジーの子育ての映像でした。この映像ではよく知らないおじさんと子供の遊びが、子供が大きくなるにつれて激しくなるというものでした。何も知らなければ喧嘩しているように見えるかもしれませんが、チンパンジーは楽しそうでした。

口移しでの給餌(EC)
ここでは、チンパンジーと南西アフリカのヒンバ族の人の口移しでの給餌を続けてみました。ヒンバ族の映像は70年代に撮影されたものです。チンパンジー同士の給餌では、ちょっとした喧嘩をしても、最後は口を合わせてキスして仲直りしている姿が印象深かったです。ヒンバ族の映像は少しスローモーションで、お母さんから子供へ口移しで食べさせてあげている映像でした。画面から、二人の関係の強さがうかがえました。

②ベッド
後半はチンパンジーのベッドに焦点を当てて映像鑑賞とトークが行われました。その前に、まずは「コウノトリ 大きな幼鳥への給餌と給水」(EC、60年代撮影)を見ることで、チンパンジーの場合、コウノトリが作るような「巣」である、というよりも「ベッド」である、というご説明を受けました。
前半の子育てに関する映像では、チンパンジーがのんびり昼寝をする様子が見られましたが、それは地面で行われていました。夜は木の高いところにベッドを毎日作って(!)寝るそうです。

チンパンジーのベッド作り と チンパンジーのベッドの上で(両方とも近年の調査映像)
まずはチンパンジーのベッド作りからです。てきぱきとベッドを作る姿はまるで職人のようでした。最初に大きい枝を敷き詰め、その次に細い枝で埋めていくそうです。長い手を使って周りの枝を折っていき、2〜3分で作ってしまうそうです。夜だけでなく、昼も時に毛繕いをしたり、お母さんは昼寝をする傍らで子供が遊んだりするそうで、その様子も映像で見ることができました。

チンパンジーのベッド、体験!
そして今日の上映会で何と言っても目玉となったのがチンパンジーのベッドを再現したソファベッドです。座馬さん曰く、「今まで寝たベッドの中で一番気持ちよかったのがチンパンジーのベッド」だったそうです。ちなみに商品の名前は「人類進化ベッド」です。
筆者も体験しましたが、ゆりかごやハンモックに近いけれどハンモックほどゆらゆらしていなく、乗り込む時には多少ゆらゆら揺れますが、寝ると安定しました。確かに、これはすぐに寝てしまうかもしれません。それほど絶妙な揺れでした。見つけたら、ぜひ体験してみてください!

ゲストのお二人のお話と、映像から観察することの面白さを教えていただきました。椎野さん、座馬さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!

板久梓織