七夜連続上映2017 〈100年後の糸と布〉レポート
2017年12月5日に行われた「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」7夜連続上映の第4夜。今夜のテーマは「100年後の糸と布――衣をめぐる人の営みから」です。ゲストは映像人類学が専門の分藤大翼さん、そしてブランド「ミナ ペルホネン」のテキスタイルデザイナー田中景子さん。植物から糸を取り出し、それが衣服になるまで、知っているようで知らないその工程を、そこに関わる人の営みから覗いてみたいと思います。
今回は糸と布に関するECフィルム3本に加え、特別上映の映像2本が上映されました。後者の2本のうち1本は、福島県の昭和村において行われている、からむしの糸づくりについて分藤さんが制作した映像。もう一本は、ブランド「ミナ ペルホネン」において行われている服づくりについて現代美術家の藤井光さんが制作した映像です。あくまでも映像を見ながらおしゃべりする会として、肩肘張らない柔らかい雰囲気の中で上映は進んでいきました。
植物から糸を作る
竜舌蘭、綿花、亜麻。これらの植物から糸を作ります。無論、最終的な行き先は糸となりますが、各植物によってその作業工程は様々です。水につけたり、たたいたり、ほぐしたり、梳いたり、その素材に合った手の掛けられ方をして、糸が出来上がっていきます。
糸を作っていく各登場人物は、私が思っている以上にぞんざいに植物を扱っていたのが印象的でした。私から見れば普段目にすることのない作業ではありますが、彼らにとってはいかに日常的な行為なのかを思い知りました。
継ぐ服作り、そしてお客様へ
特別上映1本目は「コク/2015-2016ーAutumn/Winter Collection」。「ミナ ペルホネン」の服づくりを辿った映像です。1日の始まりから終わりまでの時間の流れに沿って、オフィスでのデザイン、工場での染色、店舗での販売という3つの場面を織り交ぜながら構成されていました。
一着の服が作られるに当たって、いかに多くの人が働いているのか。各現場で人が作業している様を見据える監督の深いまなざしを感じました。「100年にこの服が残っていてほしいという思いを込めて…」と語る田中さんの理念は、各工程の中で褪せることなく継がれていき、最後にお客様の手に届けられるのでしょう。100年後に想像力を働かせ、服に「込めた物語」を着る人に継いでいってもらう。分藤さんも、「それが糸を紡ぐことの意味であり、未来との関係性を築くということなのでは」と応じました。
受け継ぐ技術、モノとの関わり
特別上映2本目は「からむしの糸づくり」。福島県は奥会津、昭和村で行われているからむし生産を写した映像です。3つの部分に分かれており、昭和村でからむし生産を昔から行っている高齢の夫婦、織姫制度というからむし生産の人材育成制度で外部からやってきた若い女性、織姫制度でからむし生産を身に付け作家として活動する女性の3組が登場します。各人のからむしとの関わり方が美しい音とともに丁寧に描かれています。
映像のなかに登場したますみえりこさんは当日会場にも来られて、トークにも参加くださいました。現在は昭和村を離れ、「からむしの良さを引き出すもの/形」を探求し、からむしの新たな展開を試みる作家活動をされているますみさんは、「受け継がれていく中の、流れの中の一部といった意識がある。じいちゃん、ばあちゃんの教えや思いを伝えていきたい」と語ります。技術を通じて、思いや文化が継がれていく。そういったモノづくりは私たちのモノとの関わり方を再考するように迫るものでもあると感じました。
最後のトークで分藤さんは、「一日、一週間、一年でモノが消費される今日、代々受け継がれてきたものの中で自分が関わらせてもらっているという意識」について触れられました。地域や年代を問わず、植物の繊維から糸を作っていく工程、また、その糸を衣服に仕立てていく工程をじっくりと観察し、話し合ってみる。そうすることで、今夜わたしたちは「これから自然と私たちがどう関わっていけばいいのか」について考える機会を得たのではないでしょうか。
村主 直人(首都大学東京)