東京都庭園美術館「こどもとファッション」展
アッパーミドルクラスの豪華な服の展示を抜けた先の
裸族の映像
東京都庭園美術館「こどもとファッション」展での上映
八巻香澄(東京都庭園美術館 学芸員)
2015年12月のECフィルム上映会「子どもからの世界」で見た、草をもてあそんでいるだけのヒンバの女の子を延々と映し続ける映像。子どもに次々とおもちゃや絵本を買い与え、一緒に遊び、手が回らない時にはついDVDを見せたりしちゃう・・・という現代日本の典型的な母親である私の貧しさをつきつけられたような気がしました。人間って何だろう?子どもって何だろう?時間って何だろう?何をして過ごす時間が豊かだと言えるんだろう?頭の中がぐるぐるしました。
さて、筆者は2016年に「こどもとファッション」という展覧会を担当しました。この展覧会は、ヨーロッパ(主にフランスとイギリス)と日本のこども服の歴史を通して、こども観の変遷を見るというものでした。大人のミニチュアに過ぎなかった年少の人間が、「こども」という存在として認められていく過程は、こども服のデザインに如実に表われています。そこから「こどもとは何か?」「こどもらしさとは何か?」「なぜ人は○○らしさを求めるのか?」といった問いを鑑賞者が掘り下げていって欲しいと考えました。いわば、「問い」の展覧会にしたかったのです。
そこで思いついたのが、ECフィルムを上映することです。ECフィルムは訳知り顔で解説はしないけれども、普遍的な人間のあり方へのまなざしがたくさんの問いを提供してくれます。子どもの出てくる映像を片っ端から見て、アフリカのヒンバと、南米のイェクアナと、パプアニューギニアのトロブリアンド諸島の映像をセレクトしました。いずれも現代日本とは異なる家族観・死生観による暮らしをしている人たちで、私たちの持つ概念が絶対的ではないことを示してくれます。(特にトロブリアンド諸島の育児するお父さんの映像は私のお気に入りで、今すぐにでもトロブリアンドに嫁に行きたいと思いました。)
ECフィルムの上映に関して、関係者の反応はさまざまでした。当然です。アッパーミドルクラスの可愛らしいドレスが並ぶ展覧会で、展示品とは全く関係のない裸族の映像を流すのですから。「なぜここでこの映像を?」と当惑したお客さんも多かったのではないかと思います。でも、この映像を上映することで、展覧会のテーマはドレスではなく「こどもについて問うこと」だということを強く訴えたかったのです。マニアックすぎる映像コーナーでしたが、不思議そうに眺めている来館者の中には、この問いが届いたことと信じています。
「こどもとファッション」展のHP
→http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/160716-0831_children.html
○東京都庭園美術館
東京都庭園美術館は朝香宮(あさかのみや)邸として1933年に建てられた建物を、そのまま美術館として公開。1920〜30年代にかけてのアール・デコを現在に伝える美しい建築が大きな特徴。装飾美術から現代美術まで幅広い展覧会を、その建築空間とあわせて楽しめる。
ECフィルムを活用した過去のイベントに「マスク」展(2015年)、「こどもとファッション」展(2016年)がある。
http://www.teien-art-museum.ne.jp/