東京都庭園美術館「マスク展」
「参加モード」のスイッチを押す
不思議映像で、
展覧会の世界へいざなう
東京都庭園美術館「マスク展」での上映
八巻香澄(東京都庭園美術館 学芸員)
美術館の展覧会では、展示室に入る前のロビーやレクチャールームのようなところで、展覧会に関連した映像が上映されていることがよくあります。展覧会の解説のためにコンパクトに編集されたそれは、映像で内容を伝えるプロの人たちが、多くの人に分かりやすいものになるようにと心を砕いて制作しています。しかし、プロットを作り、カット割をし、ナレーションをつけ・・・と作りこめば作りこむほど、それを見る人が受け身になってしまうというジレンマがあります。伝えたいこと見せたいことを、順序よくベルトコンベヤー式に観客に届けると、観客は自分で考えること・感じることをやめてしまうのです。でも展覧会というメディアは、観る人がそれぞれ自分のペースで立ち止まったり、疑がったり、よそ見をしたり、全く関係ないことを妄想したり、寄り道をしたりできるのが魅力です。それには、あんまり親切に解説しすぎないことも大切なんじゃないかなと思っています。
パリにあるケ・ブランリ美術館のコレクションから、ヨーロッパ以外の地域(アフリカ、アジア、オセアニア、アメリカ)の仮面を展示した「マスク展」(2015年)では、仮面作りや仮面舞踊の儀式の映像などを、エリアごとに分けたスクリーンで常時上映しました。実のところECフィルムの民族学映像に記録されている祭りや生活様式の中には、現在では失われてしまって詳細が分からないものもあるといいます。音、動き、衣装、表情など映像の中の圧倒的な量の情報をつなぎあわせて、現在の私たちが解釈をするしかありません。上映会場にはいわゆる解説らしい解説がなかったため、戸惑った方も多かったのですが、それ以上に多くの方が能動的に映像を読み、考え、解釈し、納得して楽しんでくれていたように思います。
なにより、太鼓のリズムがトランスを誘うアフリカの仮面舞踏の映像のコーナーで小さな子どもたちがステップを踏んで踊っていたり、チロルの祭りの映像を見ながら「よいしょー」と掛け声をかけていたりと、観客のみなさんが自由に楽しんでいた姿が印象的でした。編集やナレーションもなく、ただただ意味不明な光景が目の前に広がる・・・というECフィルムの荒削りな臨場感が、「鑑賞モード」から「参加モード」へと、観る人のスイッチを切り替えるのでしょう。ぜひみなさんも、スイッチを押されてみてください。ポチッ★
「マスク展」の際の上映プログラムはこちら
→https://www.teien-art-museum.ne.jp/programs/mask_movie.html
○東京都庭園美術館
東京都庭園美術館は朝香宮(あさかのみや)邸として1933年に建てられた建物を、そのまま美術館として公開。1920〜30年代にかけてのアール・デコを現在に伝える美しい建築が大きな特徴。装飾美術から現代美術まで幅広い展覧会を、その建築空間とあわせて楽しめる。
ECフィルムを活用した過去のイベントに「マスク」展(2015年)、「こどもとファッション」展(2016年)がある。
http://www.teien-art-museum.ne.jp/