EC応援団 Vol.9
八巻香澄
「分からないから面白い」
未来につながる好奇心をもてる
ECフィルムの不思議な魅力。
ECフィルムを見ることは、知的なポットラックパーティー。分からないことを、みんなで笑って楽しみたい。
私にとってECフィルムの魅力は、その上映会と切っても切り離せない。それほど座席数の多くないSpace&Cafeポレポレ坐で、主催者もゲストもお客さんも、ちょっとアルコールでも飲みながら、映像を見て「これなんなんでしょうねぇ」とか言っている。ゲストにはその分野に詳しい人が来ているのだけど、でも専門家だって、すべてのことを解説できるわけじゃない。むしろ専門家だからこそ、「これは知ってるけど、これはなんだか分からない」というのをきっぱり言ってくれる。さぁ、そこで長屋の熊さん八っあんの出番、いやいや観ている人すべての出番である。「こういうことなんじゃないですか?」と推理をしたり、「じゃあ他の地域ではどうなんですかね?」と専門家に踏み込んだ質問をしたり、映像が唐突に終わると(往々にしてECフィルムの終わり方は唐突だ)「・・・終わりかよっ!」とつっこんだり。
なんでしょうね、この自由な雰囲気は。普通の劇映画でも一緒に歌ったり踊ったりする上映会もあるけれども、みんなでワクワクしながら見て、その場で解釈を構築していくという上映会は、なかなかないんじゃないだろうか。その映像の中で何が起こっているか。それはもしかしたら専門家ではなくても、料理の上手なお母さんや、小さなこどもや、器用なおじいちゃんには、観て伝わることかもしれない。もしかしたら誰にも分からないかもしれない。だから、みんな対等な関係で、自分の思ったこと発見したこと知っていることを持ち寄って、ECフィルムを読み解こうとする。ピースフルで、ちょっと未来のちょっといい社会。
それが可能なのは、なんといっても「映像」というものの圧倒的な情報量とアクセスのしやすさ。専門書を原語で読む会に参加するとか、実際にフィールドワークに行くというのはハードルが高いけれども、映像であればそこから情報を読み取ることは、私たちの多くにとってさほど難しくない。そしてECフィルムがBGMや解説ナレーションなどの演出(演出とは、用意されたプロット以外の解釈を閉め出すことでもある。)を極力排していることも、そこに自分の解釈を加えていける自由さを感じるキーになっていると思う。とはいえ、やっぱり訳が分からない映像もたくさんある。分からないけれども、「分からないからつまらない」ではなく、「分からないから面白い」という未来につながる好奇心をもてるところが、ECフィルムの不思議な魅力。それって、ECフィルムに携わっていた研究者たちの視点なのかな。それを味わいたくて、私はまたEC上映会に通ってしまうのだ。
東京都庭園美術館で展覧会企画とラーニング・プログラムを担当し、来館者の美術館体験をより能動的にするデザインを模索している。専門分野は美術館教育、得意分野は現代美術とアール・ブリュット。主な担当展覧会に「ステッチ・バイ・ステッチ」(2009年)、「内藤礼 信の感情」(2014年)、「こどもとファッション」(2016年)など。