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EC応援団 Vol.6
梶丸岳

単に知的なだけでなく、解説を加えればエンターテイメント。ECの多様な魅力。

2015年7月にエンサイクロペディア・シネマトグラフィカ(ECフィルム)の上映会にゲストで呼んでいただいた。当日上映したのは北アフリカの川で足踏み洗濯をするおじさんや、なんともいえない表情でうちわ太鼓を叩くイヌイットのおじさん今はなきユーゴスラビアでグスラを弾きながら歌うおじさんなど、民族音楽学的に貴重であるのみならず、いずれ劣らぬ味のある映像だった。上映する映像を決めるための会議で見た、折角念入りに新造カヌーを祝う儀礼の準備をしてさあ儀礼をするぞという段で大火災が起きて小屋ごとカヌーが焼け落ちてしまった映像も格別面白かった。

ECフィルムに収められている時代にも民族誌映画や記録映像は撮られていたが、このアーカイブの圧倒的な量とバリエーション、そして質の高さはほとんど他の追随を許さない価値がある。おそらくECフィルムにしか残されていない文化や風習は数知れずあるはずである。大火災映像のような「うっかり撮れてしまったもの」が残っているのも、フィールド調査がいかに偶然に左右されているかを象徴しているようでとてもよい。また、動物の行動のような科学的な映像からは当時の科学観を知ることもでき、科学史研究にとっても貴重な史料である。解説の大半がドイツ語であることと、ほとんどデジタル化されていないことから、今となってはアクセスが難しいが、体制さえ整えれば貴重なアーカイブとしてさまざまな機関で活用されるはずだ。

ECフィルム連続上映会はこうした学術的に計り知れない価値を持つこのアーカイブの魅力を一般向けに伝える大切な場である。この上映会はECフィルムの映像が、単に知的なだけでなく、少し解説を加えるだけでエンターテイメントの対象としてもぐっと魅力が増すということを示してきた。

学術映像はいろんな意味で価値があり、いろんな意味で面白い。ECフィルムはこのことを遺憾なく示してくれるアーカイブである。個人的にはECフィルムがデジタルアーカイブとして、解説付きでインターネットから利用できるようになると嬉しいが、そこまで至らなくてもせめて、今後も散逸することなく保存され、その魅力を細々と後世に伝えていって欲しいと願っている。

梶丸岳(文化人類学者)

京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター特別研究員(人類学)。中国、日本、ラオスをおもなフィールドとし、掛け合い歌をコミュニケーションや遊び論の観点から研究している。著作・編著に『山歌の民族誌―歌で詞藻(ことば)を交わす』(京都大学学術出版会)、『世界の手触り―フィールド哲学入門』(共編、ナカニシヤ出版)、『フィールドの見方』(共編、古今書院)など。

梶丸さんのウェブサイト

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毛織の頭巾付き外套“ブルヌス”の洗濯

毛織の頭巾付き外套“ブルヌス”の洗濯

記号番号カテゴリ大分類中分類小分類大陸場所①場所②
E1758民族学衣文化洗濯アフリカ北アフリカアトラス高地
場所③民族製作年公表年時間色調解説書デジタル
アイト・ハディドゥ族197019749:00白黒
ありあり
No Image

うちわ太鼓の歌

記号番号カテゴリ大分類中分類小分類大陸場所①場所②
E1146民族学音楽・演奏・舞踊・演劇・語り歌唱ヨーロッパ北ヨーロッパ北グリーンランド
場所③民族製作年公表年時間色調解説書デジタル
チューレ地方1962196711:00カラーありあり
“グスラ”演奏によるモンテネグロの歌

 “グスラ”演奏によるモンテネグロの歌

記号番号カテゴリ大分類中分類小分類大陸場所①場所②
E1980民族学音楽・演奏・舞踊・演劇・語り歌唱ヨーロッパ南東ヨーロッパユーゴスラヴィア
場所③民族製作年公表年時間色調解説書デジタル
コソボ1971198111:00カラーありなし