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西野嘉章先生が語る、ECアーカイブの可能性 (4)

2016年7月23日、インターメディアテクにて開催された『キネマ博物誌――映像による万有知の構築』に関連して、東京大学総合研究博物館館長・西野嘉章先生にインタビューを行いました。
映像遺産としてのECフィルムの価値や、科学映像アーカイブがもつ新たな可能性など、刺激的なお話を全4回に分けてお届けします!

第4回  映像遺産のリユースのススメ

貴重な古書やさまざまな来歴をもつオブジェに囲まれた、インターメディアテクの館長室。

貴重な古書やさまざまな来歴をもつオブジェに囲まれた、インターメディアテクの館長室。

ディティールのなかに眠る、多彩なヴィジュアルリソース

19世紀に撮られたエジプト観光写真がある。
ルーペで細部を見ると、ラクダに乗った人々の姿が写りこんでいたりすることがある。彼らは当時どんな服装をしていたのか、どのような装身具を身につけていたのか、あるいは彼らの背後にどのような商店が軒を連ねていたのか。
これが写真によるエジプト考古学の始まりです。もちろん、文化人類学者であれば、それらの古写真のなかに、地図を見るだけでは出てこような「ファクト」を発見し、それを別な視点から読み解くこともできるに違いありません。

同じことは、現代の、たとえば、荒木経惟の写真についても言うことができます。風俗写真の背景に写り込んでいる様々なアイテムが、1960-70年代の新宿を対象とするカルチュラルスタディーズに役立つというわけです。

現代風俗を捉えた写真という、凡庸で常識的な意味を超える
すると、1枚1枚の写真のディティールのなかに、多様なヴィジュアルリソースが眠っていることに気づくはずです。

ECフィルム E0698スーダン・コルドファン・マサキン族 料理と食事(1963) この地域は1980年代より激しい国内紛争が勃発し、数百万人の住民たちが難民となったという。

ECフィルム E0698スーダン・コルドファン・マサキン族 料理と食事(1963)
この地域は1980年代より激しい国内紛争が勃発し、数百万人の住民たちが難民となったという。

とりわけ、エジプトやパレスチナ、あるいはアフリカの国々など、戦争や民族紛争を多く経験している地域では、今や、都市や自然の景観を含め、かつての生活のすがたがなにも残っていないケースもあります。

このような地域を含めて、ECの記録映像をベースにした、文化人類学的なフィールドワークという研究方法もあり得るわけです。「映像博物学」とでもいうのでしょうか、「映像遺産」をそのような視点から吟味し直すのも、面白いアプローチかもしれません。

学術標本がもつ来歴、由来、人格、その人との関わり――記憶というもの

東京大学には、実験を記録したフィルムや写真、フィールドワークで撮られた映像や静止画がたくさん残されており、そうしたもののなかには面白いものがたくさんあります。

私自身はかねてから、いわゆる映像作家による再解釈が施されていない映像、科学的文脈や研究構想的文脈において作られた「オーファンフィルム」を、まったく文脈の異なる「映像作品」制作のリソースに使ってみたいと考えていました。

総合研究博物館において、私は各種の学術遺産をリサイクルし、新しいモノに変える、そうした事業に取り組んできました。その面白さの依ってくる所以は、「何々先生がどういう研究で使った」という由緒や、「何々学部のあそこのゴミ箱から見つけてきた」といった来歴を、すべての学術遺産がもっているところにあります。

インターメディアテク2階常設展示風景 (写真©インターメディアテク、 空間・展示デザイン © UMUT works 2013-)

インターメディアテク2階常設展示風景(写真©インターメディアテク, 空間・展示デザイン © UMUT works 2013-)

ECを含め、学術遺産の特性は、由緒来歴がはっきりしていることにあります。
歴史性の結晶体。そういうものをリサイクルしてアートワークを作る試みは、さまざまな局面において無色透明化やグローバル化を志向する傾向にある現代社会のあり方、それに対抗するヒューマンな生き方を、人類の将来に与えてくれそうな気がするのです。

(Interviewer: 佐藤有美+津田啓仁   text: 丹羽朋子+津田啓仁  photograph: 下中菜穂)